プロジェクトが映画化。
映画『ラジオ下神白』(小森はるか監督)の上映が2023年夏よりスタート。

いわき市にある福島県復興公営住宅・下神白(しもかじろ)団地には、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故によって、浪江・双葉・大熊・富岡町から避難してきた方々が暮らしている。

2016年から、まちの思い出と、当時の馴染み深い曲について話を伺い、それをラジオ番組風のCDとして届けてきたプロジェクト「ラジオ下神白」。2019年には、住民さんの思い出の曲を演奏する「伴奏型支援バンド」を結成。バンドの生演奏による歌声喫茶やミュージックビデオの制作など、音楽を通じた、ちょっと変わった被災地支援活動をカメラが追いかけた。


監督は、震災後の東北の風景と人の営みを記録し続けている映像作家の小森はるか(『息の跡』『二重のまち/交代地のうたを編む』)。本作は、文化活動家のアサダワタルを中心にした活動に、2018年から小森が記録として参加することによって生まれた。カラオケとは違い、歌い手の歌う速度にあわせて演奏する「伴奏型支援バンド」。支援とは何か? 伴走(奏)するとはどういうことか? 「支援する/される」と言い切ることのできない、豊かなかかわりあいが丹念に写しとられている。


プロジェクトの集大成CD『福島ソングスケイプ』2022年3月11日リリース。

「ラジオ下神白」では、文化活動家のアサダワタルが中心になり、団地住民のまちの思い出と当時の染み深い曲について取材・交流を継続。また、住民の思い出の曲のバック演奏を行う「伴奏型支援バンド」を結成。そしてコロナ禍へ。会えないからこそ夫々の土地で歌と演奏を録音し本作が完成。解説は音楽家・文筆家 寺尾紗穂氏。

『福島ソングスケイプ』推薦文(随時追加)

避難生活を続けるひとりひとりの心の底から、ヒットナンバーがそっと花ひらく。涙とともに思い出の荒野で、幸せのメロディに支えられて。知らない人の人生なのにその歌声を聞いていると気持ちが熱く震えてやまない。

いとうせいこう(作家・クリエイター)
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僕は聴いた。『福島ソングスケイプ』のなかに、過去と未来とが衝突する打音を。ちっぽけな個人の声とサピエンスの声とがこだまし合う響きを。残酷な現実と想像的現実(人はそれを「希望」とも呼ぶ)とが重なりあうハーモニーを

山川冬樹(現代美術家・ホーメイ歌手)
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さまざまな声は意味よりも先に音として響き合う。歌はメロディを逸脱してモノローグとなる。語りは歌のようにこだまする。人と人の輪のなかにあって、音楽はことばより濃厚なコミュニケーションを創造し、ことば本来の形が透けて見えてくる。わたしたちは窮屈にことばを使い過ぎていないか?歌うように会話すればいいんだ。
アサダワタルが日常の中に発見する音のリアルは、今は少なくなってしまった名随筆家の仕事と似ている。もしかして、現代の清少納言かも?

田口ランディ(作家)
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初めて知りました。
うたが希望だという人のうたは希望の表現だし、
うたが記憶である人のうたは記憶の表れになる。

意味のあるメロディはまるで神経のように全身を駆け巡る。
美しい星を眺めているのに似ている。

あだち麗三郎(音楽家)
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歌は聴く者の心のうちで長い時間をかけて育まれ、熟成され、それぞれの人生と結びつきながら新たな物語として編み直されていく。そんな歌のありかを探るサウンドスケープ(音の風景)ならぬソングスケープ(歌の風景)作品。ひとつひとつの風景には、生きることのややこしさも、愛おしさも、割り切れなさも織り込まれていて、そうした風景がレイヤーのように重なり合うことで下神白団地という地域の物語が浮かび上がる。こんな生活記録の方法があったのかと驚かされるが、聴いていてこれほどまでに温かい気持ちになるのはなぜなんだろう?「いい歌を聴かせてもらった」という満足感で心がひたひたになり、会ったことのないはずの下神白団地の人々にいつしか親しみさえ抱くようになっていた。歌にこんな力があったとは!

大石始(文筆家・選曲家)
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一つの歌謡曲をめぐって、出てくる、出てくる、人が、人生が、失った恋が、その時代が。
誰かの家にあがりこみ、お茶をいただきながら、自分もおしゃべりに加わっているような。
地方の「のど自慢大会」か、昭和のカラオケに迷いこんでしまったような。
なんとも摩訶不思議で、懐かしい、歌と人をめぐるドキュメンタリーラジオ。
震災は、思い出のレコードですら流し去ってしまったはずなのに、歌とそれにまつわる思い出は、不思議なぐらい、はっきりと記憶されている。
震災はまた、暮らす場を奪い、悲しみや傷痕や絶望を残していったはずなのに、彼らは自然体で、語りは軽やかで、歌は力強い。
ちょっぴり人恋しくなった時に、ちょっと元気が出ない時に、調子がなかなか出ない時に、また聞いてみたいと思う、そんなCD。

坂上香(ドキュメンタリー映画監督)
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studio-Lのみなさん。すごいプロジェクトを見つけました。『福島ソングスケイプ』っていうプロジェクトです。これは面白い。ぜひ聴いてみてください。

「聴いてみてください」っていう表現が、すでにいつもの事例紹介と違いますよね。普段、僕らが参考にしたいと思う事例って、読んだり見たりするものばかりですよね。ところが今回は聴くものなんです。ここに、このプロジェクトの最大の特徴がある。

プロジェクトを進めているのはアサダワタルさん。大阪事務所のメンバーの何人かは、アサダさんと会ったことがありますよね。「住み開き」で有名なアサダさんは、音楽家でもあるんですが、今回のプロジェクトはアサダさんのこれまでの取り組みが全部組み合わさったようなものになっています。地域づくり、福祉、住み開き、音楽。これらが混ざりあったようなプロジェクトです。

舞台は福島県の浜通り、いわき市にある公営住宅。2011年の震災の被災者の方々が集まって住む団地です。ともすれば孤立しがちな団地生活をラジオでつなぐ。曲でつなぐ。歌でつなぐ。詳しくはプロジェクトの説明文を読んでもらいたいのですが、団地住民の部屋を一軒ずつ訪れて話を聞き、それをラジオ番組のように編集し、それをCDに焼き付けて団地の全戸に配布しています。僕らがよくやる「ヒアリング」の結果が、議事録とか概念図じゃなくて、ラジオ番組のように編集されているのです。

さらに、そのヒアリングで登場した曲を、本人や友人たちが歌う。伴奏は公募に応じた関東在住のミュージシャンたち。住民の方々、伸び伸びと歌っています。我々は会津で「はじまりの美術館」のプロジェクトに携わりましたよね。想像してみて欲しいのですが、あのときワークショップに参加してくれた人たちに「歌ってください」ってお願いして、人前で伸び伸びと歌ってもらうことができたでしょうか?恥ずかしがって、きっと歌ってくれないでしょうね。会津地域と浜通り地域の性格的な違いはあるとはいえ、アサダさんたちの取り組みがいかに住民の信頼を得ていたのかが感じられるところです。また、浜通り地域の明るい性格をうまく活用したプロジェクトだともいえるでしょうね。

ハンナ・アーレントの勉強会で繰り返し学んだことですが、「活動は生まれた瞬間に消える。だから記録がとても大切になる」ということはコミュニティデザインの特徴でもありますよね。だから僕らは活動を写真に撮影する。動画で撮影して編集する。文字に起こす。しかし、『福島ソングスケイプ』は音声と曲として記録しています。これは、我々が携わったプロジェクトに無かった視点です。

現代は目が忙しい時代です。写真も動画も文字も目を独占する。でも、『福島ソングスケイプ』は耳を独占する。目を解放してくれる。このプロジェクトを聴き、「あ、これはうちのスタッフたちに伝えなければ!」と思って、このテキストを書き始めましたが、その間もずっと『福島ソングスケイプ』が流れています。そういうことができる。仕事の手を止めなくても聴き続けられる。そこに登場する人たちの声の抑揚、沈黙の時間、歌声、声を張りすぎて咳き込む様子などが感じられる。団地に住む人たちは、家事や仕事をしながらこれを何度も聴き、同じ団地に住む隣人たちを感じ続けていることでしょう。そして、遠方に住む我々も被災地で生活する人たちを感じることができる。ともすれば暗い話になりがちな被災地のことを、楽しく想うことができる。住民参加型のプロジェクトとして、我々が学ぶべき点がたくさん含まれるプロジェクトだと思います。

なお、曲の演奏をしている人たちのバンド名もまたいいですね。「伴奏型支援バンド(BSB)」。福祉分野ではよく「伴走型支援」という言葉が使われますが、『福島ソングスケイプ』に登場するおばあちゃんやおじいちゃんたちのことを考えると、「伴に走る」というより「伴に奏でる」という表現がぴったりだなぁと思います。

studio-Lでも、こういう発想でコミュニティデザインのプロジェクトを進めたいものですね。

山崎亮(studio-L代表。コミュニティデザイナー)

 





プロジェクト「ラジオ下神白(しもかじろ)」とは?

「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」とは、 福島県いわき市にある県営復興団地・下神白(しもかじろ)団地を舞台に展開される、音楽と対話を手掛かりにしたコミュニティプロジェクト。住民が住んでいたかつてのまちの記憶を、馴染深い音楽とともに収録するラジオ番組を制作し、それらをラジオCDとして住民限定に配布・リリース。この行為を軸に、立場の異なる住民間、ふるさととの交通を試みている。

「復興」というキーワードからすり抜ける一人ひとりの「私」との出会いを交わすために、継続している。


■2016年12月  現地入り
■2017年2月    初のラジオ収録
■2017年5月    ラジオ下神白第1集
                 『常磐ハワイアンセンターの思い出』リリース
■2017年11月  ラジオ下神白第2集
                 『あの頃の仕事・家族の風景』リリース
■2018年4月  ラジオ下神白第3集
                 『2017年 リクエスト総集編』リリース
■2018年8月  ラジオ下神白第4集
                 『海の上で捕まえたあの風景』リリース
■2018年12月  REC⇄PLAY ある復興団地の「声(風景)」をな  ぞる ラジオ下神白 報奏会開催(出張イベント)
■2018年12月  下神白団地クリスマス会にてDJ担当
■2019年1月    ラジオ下神白第5集
                 『変化と連なり さよならのかわりに』リリース
■2019年7月    団地住民のメモリーソング(思い出の曲)のバッバック演奏を担当する「伴奏型支援バンド(BSB)」 結成。都内スタジオでの練習と団地訪問を開始。 

■2019年11月   ラジオ下神白第6集
                 『歌とともにある人生』リリース
■2019年12月   ラジオ下神白presents 「歌声喫茶 みなさんの思い出の曲をみんなで歌いましょう in 永崎団地」を開催。
■2020年3月    新型コロナウィルス感染拡大、緊急事態宣言発令以降、団地住民との交流が難しくなる。
■2020年6月   ラジオ下神白第7集
                 『このようにして わたしは生きてきた』リリース。あわせて、コロナ禍でのオンライン交流をスタート。住民とのzoomを介した交流と、団地ご自宅での歌とBSBによる都内でのレコーディングを夏か秋にかけ実施。住民が歌いBSBが演奏したMV「青い山脈」の制作など。
■2021年12月   ラジオ下神白第8集
                      『それでは歌います』リリース
■2022年2月   一般公開リリースCDとして『福島ソングスケイプ』をGranny Rideto(仙台)よりリリース。現在に至る。

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「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」ドキュメント(映像:小森はるか/YouTubeで公開中)


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福島県営復興住宅 下神白団地の住民さんとつくった「青い山脈」ミュージックビデオ (歌:下神白団地のみなさん 演奏:伴奏型支援バンド (BSB)   映像:小森はるか、福原悠介/YouTubeで公開中)


団地住民のメモリーソングを演奏するバンドメンバーを募集中。

 「ラジオ下神白」では、これまで住民さんとともに何度も聴いてきた彼ら彼女らの「メモリーソング」ー“青い山脈”や“アカシアの雨がやむとき”などー のバック演奏を行なう「伴奏型支援バンド」を結成します。そこで、団地住民のもとへ数度通い、いただいたメモリーソングとエピソードをもとに、都内のスタジオで独自のコピー練習に励む「バンドメンバー」(Gt, Ba, Key, 管楽器など)を募集します。2019年3月までに、住民さんの合唱をしっかり支えるバンドへと成長できれば嬉しいです。 詳細は以下のリンクをご覧ください。

フォトギャラリー

パブリシティ

 『読売新聞』(2017年3月8日)

 震災6年 文化でつなぐ(下) アートが築く語らいの場


『現代思想2017年8月号 特集=「コミュ障」の時代』青土社寄稿 

 表現──「他者」と出会い、「私」と出会うための「創造的な道具」


福島藝術計画インタビュー(2017年12月21日)

ラジオ番組でコミュニティの「謎」を記録する

http://f-geijyutsukeikaku.info/archives/694


ASTT 7年目の風景コラム(2018年1月12日)

 往還する記憶:「ラジオ下神白」から

 https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/blog/25040/


『東北の風景をきく FIELD RECORDING vol.01』(2018年2月2日)

誰かの思い出の曲が、また誰かの記憶へ
http://asttr.jp/wp/wp-content/uploads/2018/12/FR_01_2nd_low.pdf


あしたのコミュニティーラボインタビュー(2018年2月23日)

「表現」で風通しのいいコミュニティを生み出す

  https://www.ashita-lab.jp/special/8946/

 

アサダワタル著『想起の音楽 表現・記憶・コミュニティ』(2018年6月22日)

『想起の音楽』現在地からの展望


ASTT 7年目の風景コラム(2018年9月26日)

 風景を重ね合わせるー東北からの風景(1)

https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/blog/30902/


アーツカウンシル東京ブログ(2018年11月27日)

人生の先輩に出会う—声は、どこまで届けられるのか?―Artpoint Letterより 

https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/blog/32371/


『NHK総合(福島放送局)』(2019年1月23日・24日)

はまなかあいづToday 見つめる先に「ラジオ下神白」


『毎日新聞』(2019年2月20日夕刊)

それぞれの3.11 東日本大震災8年 音楽で「個人」と出会う

https://mainichi.jp/articles/20190220/dde/014/040/016000c


『読売新聞』(2019年2月25日)

MyDayMyWay  「個人」に出会うラジオ

『NHKサイカルj』(2021年3月10日)

SPECIAL 震災と表現 あの日から未来へ  震災10年 被災者の「語り」とは
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2021/03/special/special_210309/?utm_source=headtopics&utm_medium=news&utm_campaign=2021-03-11